『世代をこえて百曲を歌おう』

 おかや音楽協会では、発足以来、日本の情緒豊かなわらべうた、童謡、唱歌、歌曲 などを、多くの皆さんに歌い継いでほしいという願いから「歌魂(うただま)のつどい」と称して活動を続けてきた。そのため「世代をこえて一緒に歌える曲」が網羅された歌集を探してきたが該当するものが見あたらず、「独自の歌集を作ろう」ということになった。市民およそ1000名にアンケートし、アンケート結果を100曲の歌集(楽譜+歌詞)を作る参考にさせていただいた。
 歌集作成担当を仰せつかった時点で、この歌集を手にした方が、見やすい楽譜としてのみではなく、読み物としても面白いものを作ってみたいと思った。 「できる限り原典に近いものにする」「歌詞は全文を載せる」「歌詞は小学生にも読めるよう、漢字にフリガナを付ける」「全曲解説を載せる」この四つのことを念頭に、一曲ずつ作成していった。平和国家日本というなかで、軍国主義的なもの、超国家主義的なもの、神道に関わっていると判断したものは、教科書から排除されていること、明治元年から一世紀半、時の政府がさまざまな形で、音楽文化に与えてきた影響などを垣間見ることができた。 なによりも強く感じたことは、アンケートにより市民の皆さんが選んだ100曲が、曲、詩ともに素晴らしいものであり、後世に残していくべき大切な文化であるのを確信したことだった。楽譜と言っても市販されている楽譜をコピーして使用することは著作権上認められていないので、すべての楽譜はコンピュータ上で作成していった。10年以上前から使っていたMacの楽譜作成ソフト「フィナーレ」その後7〜8年前から使っていた同じくMacソフトの「スコアメーカー」で作業しようとしたが、思ったようには使えなかった。それどころか「スコアメーカー」はMacから撤退しWindowsのみになってしまった。仕方なく使い慣れないWindowsで作業を進めるうちに、思わず立ち止まることがしばしばでてきた。中でも困ったのは、世の中に出版されている楽譜が何種類もあり、どの楽譜が最も正しいのか判断できないことだった。そんな時ネット上で童謡唱歌について詳しく解説しているサイトを見つけた。それが池田百合子先生が管理している「童謡・唱歌 事典」だった。一も二もなく早速池田先生にメールを送りこちらの事情を話したところ、なんと快く悩みをお聴きくださり協力を約束してくださった。単旋律楽譜に歌詞を付け漢字にはルビをつけ、一曲毎に解説をつける作業が8ヶ月続いたが、その都度池田先生にデータを送り細かいところまでチェックを入れていただいた。
 事件が起きた。ほぼ毎日睡眠時間が4〜5時間だったことが災いし、頭部から右目にかけて帯状疱疹を発症、強烈な頭痛と腫れ上がった患部の痛みで一月半ほど苦しんだ。傷は治ったが目はダメージを負い、左右の目の水平が食い違ってしまい生涯治らないらしい・・。
最後の曲「岡谷讃歌 ロマン街道」が仕上がり、あとがきを書き終え、仕上げは装丁だった。さてどんな表紙にしたものかまったく考えていなかった。全体の色は明るい肌色にしようと思ったがデザインがうかばない。そんな折実家の取り壊しがあり、倉庫の中から母が残してくれた私の小学校時代の絵がほとんど無傷の状態で出てきた。80点ほどの作品を全部スキャニングしてデーター化したのだが、ふっとその絵のいくつかを表紙に置いてみるとなかなか面白い雰囲気だ。楽譜作成プロジェクトチームの方々に見ていただくと「いいね!」「面白い!」と多くの賛同を得ることが出来、ようやく印刷所にデータを渡すことが出来た。
 この文を書いている2021年7月には第5刷の発註をかけることが出来ている。